私たちの空気のうまい暮らし **カイケンコーポレーション取材**

骨董、アンティーク、富貴蘭。趣味の部屋のある心に贅沢な生活

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●群馬県 桐生市 T様 新築

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桐生の街並を見晴らす高台に建つT様邸。音響熟成木材の黒を用いたその外観は、周囲の樹木と調和しています。

「身近に自然がある暮らしがしたい」と、故郷の桐生へ

服地の柄やパターンなどを手掛けるテキスタルデザイナーのT様は、首都圏の大学を卒業され、アパレルメーカーでの仕事を経た後、「身近に自然がある暮らしがしたい」ということで、生活の拠点を故郷の桐生に移されました。

2014年1月にご自宅を新築。「日本の懐かしい風景に魅かれるんです」とおっしゃるT様は、富貴蘭をはじめ、骨董、アンティークなどに造詣が深く、独自の審美眼で日常を紡がれています。

古くから織物の産地として栄えてきた、群馬県の桐生。
お訪ねしたT様邸は、桐生の街並を一望できる山の手の住宅地にありました。

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お出迎えいただいたT様。テキスタルデザインのお仕事をされています。

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T様の粋で風流な趣味である「富貴蘭」が、さりげなく玄関でお出迎え。

「余分に使わない部屋ができるのがいやだったんです」

T様は外壁が焼杉の家をお望みで、いろいろとお探しになられていたところ、石原工房さんのWEBサイトを発見。「音響熟成木材 黒」や「幻の漆喰」を知り、さっそく相談されたとのこと。

打合せに持参されたたくさんの資料に丁寧に目を通す石原社長の姿や、T様のお好きなものに対する理解や共感などから、家づくりのパートナーとして石原工房さんをお選びになられたそうです。

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玄関を入ると、音響熟成木材<黒>と幻の漆喰の落ち着いた住空間。
アンティークのランプがその魅力を引き立てます。

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時の流れがここだけゆるやかになったような雰囲気。ダイニングテーブルと椅子も音響熟成木材の手作り。

お住まいは、「余分に使わない部屋ができるのがいやだったんです」とおっしゃるT様の考えが反映された無駄のない潔さが素敵な空間。

リビング・ダイニングは、桐生の街並を一望できるウッドデッキとつながり、落ち着いた風情と快い開放感が同居しています。

「いいにおいですねーって、みんな言いますよ」とT様がおっしゃる通り、音響熟成木材と幻の漆喰による「空気がうまい家」ならではの清々しい雰囲気が満ちていました。

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アイランド型のキッチンも音響熟成木材仕様。アンティークやレトロな雑貨との相性も上々です。

骨董を愉しみ、草花を愛でる

学生の頃から「古いもの」「自然なもの」に魅かれてきたというT様。
庭の山野草を摘み、アンティークの小壜に生ける。
そんな自然を住まいの中に取り込む暮らしのスタイルは、「こだわり」と言うより「好きだから」とのこと。
だからこそ、さり気なく肩肘をはらない「粋」が香り立つのかもしれません。

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テーブルには、愛用のそば猪口とともに、藍染と陶芸で名高い菅原匠さんの作品集や、白州正子さんのエッセイが。

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T様の骨董コレクションである江戸時代初期の古伊万里のそば猪口。

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そば猪口は底を見ると時代が分かるそうです。

「底の厚い、ぼってりした感じが何とも良くて、日本酒などを飲むのにすごくいいんです」
好みのそば猪口についてお話しされるT様は、とても楽しそうです。

「このそば猪口、中に虫が描いてあるんですよ。つゆを飲み干したら虫がいた!って、
職人さんの遊び心ですよね。いいですよね(笑)」

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そば猪口の底に描かれた虫の絵。江戸時代の職人の遊び心が、現代の私たちの心を和ませます。

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そば猪口に生けられた庭の山紫陽花。


「山紫陽花は花が小さくていいですよね。"和"の雰囲気に良く合うでしょう?」

庭の野の花をお気に入りの器に生ける。それだけで、何でもない日のおもてなしです。

「古いものや自然のものって、なんでこんなに可愛いんでしょうねえ」と目を細めるT様。
骨董の話、富貴蘭の話、庭づくりの話・・・その話は尽きません。

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手前にあるのは、職人さんの手による竹細工のとんぼ。なんとも味のある作品です。

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広いウッドデッキからは桐生市街地が一望できます。

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谷崎潤一郎の『陰翳礼讃』にあるような日本家屋の魅力としての「暗がり」が生まれる住空間。


ノスタルジーを愛でる

網戸から心地良い風がぬけるリビング・ダイニングをあとにして、2階へ。
T様宅の2階には、「蘭」のための部屋があるのです。

2階にあがると、居室の入口に大きな「蕪(かぶ)」が染め抜かれた、見事な藍染の暖簾が。
光の差しぐあいで麻布の透け方が変化し、蕪の見え方も変わる美しい品です。

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随筆家の白洲正子さんが「美の匠」と惚れ込んだ菅原匠さんの藍染は、布地にもこだわりがあり、世界中から吟味したものを使われているとのこと。

この藍染の暖簾は、伊豆大島で染織や陶芸を生業とする菅原匠さんの作品。
藍は生きている素材なので、「建てる(水に溶けない藍を水に溶けるよう変化させて染め液を作ること)」という作業がとても難しいとのこと。

T様は、型紙や下絵を用いない「指描き」や「筒描き」で麻布に直に図柄を描く菅原さんの独創的で愛嬌のあるデザインが、たまらなく好きなのだそうです。

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暖簾の向こうにある居室を兼ねた寝室も、心身ともに安まる落ち着いた雰囲気です。

この場所を選んだのも、蘭の栽培に適していたから

2階に設けられた「蘭」のスペースは、2つあります。
ひとつは、「富貴蘭」のための半屋外のデッキスペース。
もうひとつは、海外の珍しい蘭などを栽培するための空調付きの小部屋スペースです。

「富貴蘭」とは、もともとは日本原産のラン科の着生植物「フウラン」のこと。
その葉と花の美しさや芳しい香りなどから、古くから園芸植物として栽培され、いつしか古典園芸植物としてのフウランの総称として「富貴蘭」と呼ばれるようになっていったようです。

「富貴」の名の通り、江戸時代には徳川将軍家や諸大名などに愛好され、姿、形の珍しい富貴蘭の収集が一大ブームを巻きおこしていたそうです。

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富貴蘭には「黒龍」「舌奇離雀」「松虫」「桃酔」「弁慶丸」など、その全てに名前があり、いわれの物語があります。

T様と蘭との出会いは、大学生の頃。

「たまたま入った横浜の山野草屋さんで見かけて、あ、いいなと思って。もともと両親が家庭園芸とか好きだったので、そういうのを見ながら育ったせいもあるかもしれませんね」

それから、富貴蘭に魅せられたT様。

「実は、この場所を選んだ理由のひとつも、蘭の栽培に適していたからなんです(笑)」

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富貴蘭は、素焼きの鉢に水苔を盛り、その上にのせて育てられます。世話は、乾いたら水をやる程度で大丈夫とのこと。

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2階に設けられた富貴蘭専用のスペースにて。

「文化・教養・洗練」と訳される「カルチャー:culture」の語源を辿ると、「耕す」という意味に行き着きます。

農耕栽培や園芸には、万年、千年の人間本来の文化の積み重ねがあって、そこに、私たちはえも言われぬ魅力を感じとってしまうのかもしれません。

「富貴蘭は、全国規模の展示会もあって、番付がついたりもするんです。出品作品は江戸時代の古伊万里とか楽とかの古鉢に入れてあるんですけど、その姿がまた、いいんですよね(笑)」

ナチュラル・ノスタルジア

「こっちの方は、ちょっと手がかかるんです。こまめに手をかけてあげないといけない」
とT様がおっしゃるのは、もうひとつの「ラン」のほう。

「クールオーキッド」などと呼ばれる、熱帯の山岳地帯などに自生するランです。
下の写真のように、コルクなど木の皮に植え付け(板付け)されて育てられています。
富貴蘭とはまた趣きが異なり、こちらはなかなかワイルドな趣きですね。

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壁に掛けられたコルクに板付された、海外原産などのランたち。ちょうど、白い花がひとつ、咲いていました。


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人の手と人の手が及ばない自然の力が同時に息づくものは、いろいろな思いを育み、見ていてあきません。

「ランは、その国その国でいろんなランがあります。うちにもいろいろありますが、例えばマダガスカル原産のランとか、日本のセッコク(石斛)とかも栽培してます。いろんな木に着生するランがあって、それぞれ違うんですよ。好きな人じゃないと、その違いは分からないかもしれませんが(笑)」

T様がおっしゃるように、それぞれ違う種類のランたち。
咲かせる花の美しさもまた、それぞれ違います。

「"ラン"っていうと、胡蝶蘭とかシンビジュームとか"洋蘭"のイメージが強いですよね。でも、なぜか、こういう自然のランに魅かれるんですよね。骨董も、自然のものも、そこはかとないノスタルジーがあって、それが好きなんです。ランを育てているのも、ノスタルジーを感じたくて育てているのかもしれません」

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日が暮れかけてくると、また趣きのある自然素材の風情が醸し出されます。

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リビングとつながったウッドデッキの向こうに、日暮れどきの美しい桐生の街並みが広がります。

自然体と無造作

T様のお住まいで感じたのは「自然体」「無造作」ということ。
骨董のそば猪口や、レトロできれいな色のガラス壜、アンティークな灯り・・・
ひとつひとつの調度品が念入りに選ばれているからこそ、一見、無造作に置かれていてもとても絵になる空間が生まれているのだと思います。

無造作には数寄の造作があり、自然体には風雅な知見がある。そんな感じでしょうか。

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時代を超えた普遍性が漂う玄関。T様いわく「古い大きな壷を置いて、
無造作に枝とか草花を入れて飾りたいですね」。

おそらく明治、大正、昭和初期のものと思われるアンティークなガラスの照明の数々も、T様のコレクション。
デザインに職人の「手仕事感」が息づき、人肌のぬくもりを感じさせるやわらかな「あかり」が、日々を灯します。

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アンティーク、古き時代の良きものの魅力の秘密のひとつは、「そこに流れてきた時間」かもしれません。
ものが時を纏(まと)うことで、その懐かしい時代の記憶が、受け継いだ人の新しい物語に溶け込んでいきます。

これからの懐かしさを少しずつ
「これから、少しずつ、いろんなものを足していこうかなと思ってるんです」
とT様がおっしゃるように、お住まいの本当の愉しみは、これからです。

「カーテンは、自分で気に入った布を探してつくろうと思っています。玄関とリビング・ダイニングの間には、間仕切りをつくりたいんですよ。これは、やっぱり菅原さんの藍染めの暖簾を使いたいんですよね。鷺が飛んでいる図柄があって、これがまた、いいんですよ(笑)。

時間帯で光の加減が変わるでしょ? その光の具合で、藍の色が透けてしまって、鷺だけが浮かび上がって見えるんです。ほんとに鷺が宙を飛んでいるような感じ。それがまた、素晴らしいんですよね(笑)」

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美しい自然素材の経年変化とともに、T様好みのものも増えて、より味のある空間になっていくことでしょう。

T様のこれからの愉しみは、暮らしの新しい懐かしさとなって、日々に根づいていくことでしょう。

「庭をどうしていくかも、楽しみなんです。今、白いゴヨウツツジを探してもらってるんですけど、なかなかないんですって。ゴヨウツツジは、蝶々が飛んでるような、優しい花の感じがいいんですよ」

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シンプルな平屋のデザインが趣きを際立たせているT様邸です。

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T様の愛車、ランドローバーのディフェンダーとはもう10年以上の付き合いになるそうです。

T様のお住まいには、良いものを発見する工夫が様々にあり、その歓びに満ちた生活の面白さがたくさんありました。

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